「危険物取扱者」とは、消防法で定められた危険物を取り扱ったり、危険物の取り扱いに立ち会ったりするために必要な国家資格およびその有資格者のことを指しています。
前回の記事で、本資格についてのご紹介をさせていただきました。
本資格には、さらに「丙種」→「乙種」→「甲種」という3つに大別されることとなり、甲種に近づくほど受験資格が必要+受験難度が高くなっていきます。
では、実際に本資格の受験難度はどれほど高いのでしょうか?
また、資格取得に向けて、どのように勉強を進めていけばいいのでしょうか?
今回は、こういった点について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
「危険物取扱者」について
概要
本資格は「国家資格」であり、取得できれば履歴書に記載することもできます。
“国に認められている資格”ということで、その社会的ステータスはかなり高く、資格を所持していれば「就職・転職にも有利になる」ことは間違いありませんし、「資格を活かせる業界が増えている」ことも大きなメリットとなり得るでしょう。
尚、本資格を取得すれば、消防法で定められている“燃えやすい危険物”……例えば「ガソリン」や「灯油」などを業務で取り扱うことができます。
「受験資格」について
冒頭にも記載した通り、本資格は「丙種」「乙種」「甲種」の3つの区分に大別されます。
そして、「丙種」と「乙種」に関しては、受験資格というのは設けられておらず、誰でも受験することが可能です。
しかし、最上位である「甲種」に関しては、以下のように厳しい受験資格が設けられています。
◆大学等において化学に関する授業科目を15単位以上修得した者
◆乙種危険物取扱者免状を有し、危険物製造所等における危険物取扱いの実務経験2年以上の者
◆4種類以上(①第1類又は第6類、②第2類又は第4類、③第3類、④第5類)の乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者
◆修士、博士の学位を授与された者で、化学に関する事項を専攻したもの(外国の同学位も含む。)
ただし、上記いずれかの条件を満たせば良いということなので、例えば現在高校生の方で「危険物取扱者の資格取得を考えている」という人であれば、それを視野に入れて学校選びをするのも良いでしょう。
受験資格を得られることはもちろん、大学や専門学校で幅広い知識を学ぶことが可能です。
逆に、もし「すでに社会人として仕事をしている(受験資格をどれも満たせていない)」という人は、受験資格が必要ない「丙種」「乙種」から資格を取得し、将来的に「甲種」の取得を目標にすると良いかと思います。
この場合のオススメの受験方法は、「乙種(乙4)から取得する」が良いです。
その理由は、“乙4を取得する=ガソリンスタンド・石油倉庫・石油運搬企業などの求人が多い=仕事の需要が高い”からです。
また、乙種はさらに第1類~第6類まで分類されることとなりますが、どれか一つの類に合格すると、他の類を受験する際に“一部試験が免除される”というメリットもあります。
つまり、甲種の受験資格の一つである「4種類以上(①第1類又は第6類、②第2類又は第4類、③第3類、④第5類)の乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者」の条件を達成しやすくなるのです。
危険物取扱者として長く仕事を続けていくのであれば、多くの人が「甲種」の資格取得を目標とされます。
受験資格の達成条件は複数あるので、ぜひ自分に合ったやり方で、資格取得を目指してみてください。
試験内容・合格率について
次に、本資格の試験概要および合格率について、ご紹介をしていきたいと思います。
試験日程について
本試験は、全国各地……各都道府県ごとに開催されています。
そのため、“試験日程は全国一律ではない”となります。
詳細な試験日程は、消防試験研究センターの各都道府県支部にて確認をとるようにしてください。
“試験日程が全国一律ではない=合格発表日も各地域で異なる”こととなりますので、こちらも合わせて確認を取っておくといいでしょう。
受験の申請方法について
受験申請は、「電子申請」もしくは「書面申請」で行うこととなります。
電子申請は、インターネットで申し込みの手続きが可能です。
対して書面申請の場合は、願書の提出が必要となります。
受験料について
受験料は、甲・乙・丙ごとに金額が異なり、以下のようになります。
◆「乙種」:4,600円(1区分につき)
◆「丙種」:3,700円
この支払は、郵便局の窓口にて行うこととなります。
試験問題・難易度について
ここからは「甲種」「乙種」「丙種」で、それぞれで出題される試験内容および各合格率をご紹介していきたいと思います。
「甲種」
試験時間は「2時間30分」です。
そして、試験は五者択一のマークシート方式であり、以下が出題されます。
●物理及び化学10問
●危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法(性消)20問
そして、直近の試験の合格率は以下のようになっています。
◆令和2年度:受験者数15,924人、合格者数6,817人、合格率42.8%
◆令和1年度:受験者数19,540人、合格者数7,721人、合格率39.5%
◆平成30年度:受験者数20,977人、合格者数8,358人、合格率39.8%
◆平成29年度:受験者数22,504人、合格者数8,388人、合格率37.3%
合格率はおおよそ“40%前後”であり、他2種に比べて難易度は高めです。
そもそも、甲種は“受験資格が設定された上での合格率40%前後”なため、かなりしっかりと試験対策を行った方が良いでしょう。
「乙種はすぐに合格できたが、甲種は何度も受けることとなってしまった……」こういう人も少なくないのです。
「乙種」
こちらは、試験時間が「2時間」であり、甲種に比べて少し短めに設定されています。
試験は、上記と同じ五者択一のマークシート方式ですが、出題される問題は若干異なります。
●基礎的な物理学及び基礎的な化学10問
●性消10問
そして直近の合格率は、以下のようになっています。
◆令和2年度:受験者数222,706人、合格者数100,066人、合格率44.9%
◆令和1年度:受験者数282,416人、合格者数126,875人、合格率44.9%
◆平成30年度:受験者数304,356人、合格者数136,471人、合格率44.8%
◆平成29年度:受験者数325,411人、合格者数135,210人、合格率41.6%
こちらも合格率はかなり低く“約45%前後”となっています。
この合格率が低い理由は、「乙4の合格率がかなり低い」からです。
乙4のみの合格率は“約35%”ほどであり、それ以外の類の合格率は“約70%”前後となっているのです。
なぜ乙4だけがこれほど合格率が低いのか?
実は、乙4だけが飛び抜けて難しいから……という訳ではありません。
受験者数をご覧いただければわかる通り、「乙4の人気が高く、受験人数が多いから」なのです。
そのため、「初めて試験に挑戦する」や「あまり勉強していないけど、まずは受験してみる」といった方も多く、それが合格率の低下につながってしまっているのです。
実際、乙4の難易度自体もそれほど高いというわけではありません。
もちろんしっかりと試験対策を行わなければならないのは確かですが、初学者であっても十分合格は狙える範囲です。
「丙種」
最後は「丙種」ですが、こちらの試験時間はもっとも短く「1時間15分」となっています。
そして試験は四肢択一のマークシート方式であり、以下から問題が出題されることとなります。
●燃焼及び消化に関する基礎知識5問
●性消10問
そして直近の合格率は、以下の通りです。
◆令和2年度:受験者数21,890人、合格者数11,822人、合格率54.0%
◆令和1年度:受験者数27,523人、合格者数13,879人、合格率50.4%
◆平成30年度:受験者数30,028人、合格者数15,366人、合格率51.2%
◆平成29年度:受験者数33,128人、合格者数16,780人、合格率50.7%
≪前回の記事≫でもご紹介した通り、丙種は扱うことができる危険物が制限されているため、試験の難易度も下がっています。
とはいえ、それでも合格率は“約50%”なので、しっかりと試験対策を行う必要性はあるかと思います。
ただ、やはり“扱うことができる危険物が制限されている=業務の幅が狭まる”という意味合いも含め、「丙種」の取得を狙うなら「乙4」の取得を目標とした方が良いような気はします。
参考書などを見て「乙4は自分には少し難しいな」と感じたら、丙種取得を目指してみる……ぐらいでもいいかもしれません。
受験の注意事項について
まず、受験のために提出した書類や受験料は、後で返してもらうことができません。
加えて、試験科目の免除を受ける場合、“既得免状の写し”が必要となります。
虚偽の内容を提出した場合、当然ながら受験はできません。
書類の添付のし忘れがないか、提出する情報は正しいものかを、事前にしっかりと確認しておきましょう。
また、本試験は全国各地(各都道府県)で定期的に開催されており、試験の日程は地域によって異なります。
各試験の申し込み締め切りを過ぎたあとで、試験の種類や日程を変更することはできません。
受験する試験の種類および試験の日程は、間違いがないように注意して申し込みをするようにしてください。
試験合格後は、どうしたらいい?
試験に合格していたとしても、“そのままの状態では危険物取扱者を名乗ることはできない”となります。
合格通知が来たら、受験した各都道府県の消防試験研究センター支部に「免除更新申請」をし、手数料を納付しなければいけません。
危険物取扱者に「義務付けられている」こと
義務付けられていることは、2つあります。
一つは「受講義務」です。
これは、「危険物取扱者の資格を有しており、かつ危険物取扱作業に従事している人」に義務付けられているもので、「保安講習」というものを受けなければいけません。
受講するタイミングは、以下の2パターンです。
◆新たに危険物の取扱作業に従事する場合は、新たに従事する日から1年以内
法令や情報というのは、常に一定ではありません。
この講習を受ける目的は、「順次更新される消防関連法令」や「危険物に関する新しい知識」を見つけるために設けられているのです。
もし受講義務を怠ると、免状の返納を命じられる可能性があるため、要注意です。
そしてもう一つは、「資格の更新」です。
具体的に有効期限や更新制度があるわけではないのですが、“免状に添付された写真の有効期限が10年以内と決まっている”こととなります。
そのため、長くても10年ごとに写真を新しいものにする必要があるのです。
もし写真の更新をしなかった場合は、免状の効力が失われることとなります。
(ただし、資格が失効することはない)
また、記載内容に変更があった場合も、当然更新する必要があります。
これらの点には十分注意しておきましょう。
試験の「学習方法」について
学習方法は「2パターン」存在する
学習方法について、これは以下2パターンが存在します。
②「通信講座」などを利用する
順に補足を加えていきましょう。
「独学」の場合
独学の場合は、参考書や予想問題集などを購入し、後はひたすら勉強をしていくのみです。
危険物取扱者の試験は、出題範囲が広く、暗記しなければいけない要素が非常に多いです。
例えばの話ですが、もっとも受験数が多い「乙4」を例にして少し勉強方法をご紹介しましょう。
独学で勉強する場合、まずは「危険物の性質や特性、化学や物理の基礎を繰り返し勉強する」ことから始めてみましょう。
出題形式や内容が似通っているものも多いため、過去問などを問いていくのも効果的です。
そして、上記をしっかりと学んだあとに、最後に「法令」の勉強をするのがオススメとなります。
法令は、基本的に暗記がメインとなるため、最後の総仕上げとして取り組むと効率的なのです。
この時に大切なのは、「自分に合った参考書と予想問題集を用意する」ことです。
乙4は多くの人が受験することもあってか、市販のテキストや試験対策アプリなども種類が豊富です。
種類が豊富だからこそ、“自分に合った参考書を選ぶ必要がある”と言えるのです。
あとは、最新の改訂が加えられており、試験の出題傾向を意識しているものを選ぶことも重要かと思います。
そしてある程度知識が付いたら、予想問題を解いていくといいでしょう。
ちなみに、過去問は「一般財団法人消防試験研究センター」のWebサイトからダウンロードできますので、それを利用してみてください。
最後に、一つ注意点をお話します。
それは、「3科目すべてを満遍なく勉強する」ことです。
なぜかというと、試験に合格するためには、「すべての科目で”60%以上”の問題に正解しなければならない」からです。
合格基準を満たすためには、どの科目も満遍なく勉強する必要があります。
だからこそ、物理や化学の基礎から取り組み、ある程度理解できてから法令の勉強をすると、効率的に勉強を進められるのです。
「通信講座」の場合
独学以上に費用はかかるものの、通信講座を利用するのも一つの手段と言えます。
通信講座を利用するメリットは、以下の2つが挙げられます。
②「不明点があっても、質問すれば回答してもらえる」
独学で勉強する場合、基本的には参考書とにらめっこの日々が続くこととなります。
分かりづらいことがあっても、自分で理解を深めていくしか方法がなく、行き詰ることも多くなるでしょう。
モチベーションを維持し続けるのも難しいかもしれません。
しかし、通信講座を利用すると、動画などでプロが丁寧に指導してくれることとなります。
動画で解説してくれるので、文字の羅列以上に理解しやすく、飲み込みも早くなるはずです。
加えて、「不明点を早めに解消できる」というのも大きな利点の一つです。
費用こそ高くはなってしまいますが、それに見合うだけの価値はあると思います。
通信講座もさまざまな企業が提供しているので、値段もそれぞれです。
気になる方は、「危険物取扱者 通信講座」などで検索をかけて、自分に合った講座を選択するようにしてみてください。
まとめ
以上が、「危険物取扱者の試験概要・合格率・学習方法」についてのご紹介となります。
本資格には「甲種」「乙種」「丙種」の3つの種類があり、それぞれで扱うことができる危険物が異なります。
そして、試験の難度もそれぞれで大きく異なります。
特に「甲種」に関しては受験するための条件も必要となってくるため、誰もが簡単に受験できる資格でもありません。
「丙種からか?乙種からか?甲種からか?」まずは、自分に合っているものがどれなのかを把握するところから始めてみてください。
その上で、「どういった学習方法で勉強していくのか?」を検討してみてください。
なんにせよ言えることは、「資格を取得するためには、ある程度時間をかけてコツコツと勉強に取り組む必要がある」ということです。
近道こそありませんが、しっかり勉強すれば十分合格は可能なレベルだと思います。
資格を取得すれば、就職や転職に有利となります。
また、資格を活かせる業界も広まっていますし、危険物に関する知識は日常生活でも大いに役立てることができるはずです。
メリットや自分の希望なども考慮しつつ、自分に合った資格取得を目指してみてください。