「消防士」は、人々を火災や災害から守ってくれる職業です。
これまでの記事では、「仕事内容」や「なり方」について、ご紹介をさせていただきました。
この職業は、各市町村ごとに採用される「地方公務員」という扱いになります。
公務員というからには「安定した収入を得られるのでは?」とイメージする人も多いかもしれませんが、具体的にはどのくらいの収入が得られるのでしょうか?
また、働き方やキャリアプランはどのようになっているのでしょうか?
今回は、こういった内容について、詳しくご紹介していきたいと思います。
消防士の「給与」について
はじめに
冒頭でもお伝えした通り、この職業は「地方公務員」であり、各地方自治体にある「消防本部」や「消防署」に所属して働くこととなります。
もちろん、職員の採用も自治体ごとに行われており、勤務条件は市町村の条例に定められています。
つまり「所属する自治体によって、給与や年収にも差が出てくる可能性がある」ということです。
また、「地方公務員」であるということから、他の公務員職と給与などに大きな違いもありません。
ただし、他の公務員職と明確に違う点が、一つだけあります。
それは、職務の”特殊性”および”危険性”があるという点です。
消防士は、火災や災害の現場に赴き、消火・救助活動を行います。
それはつまり、“危険を伴う現場に赴く”ということであり、場合によっては「殉職」してしまう可能性も否定はできません。
このため、一般事務に携わる公務員に比べて若干高めの給与水準となっており、また出動回数などに応じた手当の支給なども行われることとなります。
「平均給与」はどのくらいなの?
例えば、令和2年の消防士の平均給与は、「300,514円」とされています(平均年齢は39.3歳)。
また、平均諸手当月額は「93,496円」で、ここに出勤手当などの手当も含まれることとなります。
これに加え、ボーナス(平均給料月額の4.05〜4.65ヵ月分ほど)が支給され、ボーナスを含めた平均年収は「650万円~700万円」ほどといわれているのです。
ちなみに、2019年の全国の消防士の平均年収は「641.1万円」となっています。
この年の民間企業の平均年収は以下となっており、民間企業に比べれば年収は高いことが伺えます。
◆正規・非正規含む:436.4万円
◆正規社員のみ:503.4万円
◆非正規社員のみ:174.6万円
ただし、国家公務員の平均年収は「677.7万円」なので、国家公務員と比べれば年収は低くなります。
つまり、低所得ではないものの、高所得の職業とも言えない……ということが分かります。
万が一の事態を助ける補償制度も存在する
上記でもお伝えした通り、この職業は常に怪我と隣り合わせの仕事です。
職務内容も他の一般的な公務員と比べて負担が大きいことから、さまざまな補償制度が用意されています。
例えば、以下のような補償があります。
◆「休業補償」
◆「介護補償」
◆「障害補償」
◆「傷病補償年金」
◆「遺族補償」
◆「葬祭補償」
加えて、社会復帰に要する費用や、遺族への援護資金が支給される場合もあります。
収入を上げるには、どうしたらいい?
まず、この職業は公務員であることから、年齢が上がるにつれて給与もアップしていきます。
後は、昇任し、階級が上がることでも給与アップが見込めますし、給与の上り幅も大きくなります。
ただし、階級を上げるためには「昇任試験(選考)」を受けなくてはいけません。
とはいえ、公平・厳正な競争試験が行われるため、誰にでも出世のチャンスは得られるといえるでしょう。
(採用区分によって、昇任試験を受験するために必要な勤務年数に違いはある)
自治体によっては、スキルアップの精度(研修制度や技能認定試験など)が用意されているところもあるので、仕事をしながら実力を磨けるチャンスは多く用意されています。
消防士の「働き方」について
主な働き方は2つある
消防士の働き方(勤務形態)は、主に2つあります。
それが、「交代勤務」と「毎日勤務」です。
この項目にて、それぞれの特徴をご紹介していきましょう。
「交代勤務」について
火災や災害は、いつ起こるか分かりません。
そのため、消防署は24時間365日、いつ起こるか分からない火災や災害に備えて、常に誰かが出動できる体制をとっています。
しかし、当然ながら一人の職員がずっと働き続けているわけではありません。
多くの消防士が「交代制」で勤務をしているのです。
(交代制=隔日勤務と呼ばれることもある)
この交代制勤務は、「2部制(2交代制)」と「3部制(3交代制)」が存在します。
(どのパターンで働くかは、所属する消防本部によって異なる)
以下で、それぞれの特徴をご紹介していきます。
「2部制(2交代制)」とは?
これは、職員を2つのグループに分け、それぞれが交互に勤務していく形となります。
「勤務→非番→勤務→非番」を繰り返し、数サイクルしたら「週休」が入ることとなります。
ちなみに、勤務は「24時間勤務」となります。
丸一日働いて、翌日は丸一日休み……というサイクルを繰り返すため、「隔日勤務」とも呼ばれるのです。
全国の消防士の約50%が、この2部制で勤務をしています。
「3部制(3交代制)」とは?
これは、3つの班が交代で勤務をする形となります。
サイクルは、「当務→非番→週休→当務→非番→週休……」といった流れになり、数サイクルに一度「日勤」が入ることとなります。
言うなれば、「丸一日働いたら、二日休み」というサイクルを繰り返すのです。
(上記を繰り返し、数サイクルに一度日勤が入る)
これは、全国の消防士の約30%が、この勤務形態で仕事をしています。
「毎日勤務」について
これは一般の公務員と同じような勤務形態のことであり、「平日8:30~17:30まで働き、土日祝は休み」となります。
要するに、「カレンダー通りの勤務」になるというわけです。
全国の消防士の約20%が毎日勤務で仕事を行っています。
特に、本庁業務の職員や予防業務に就く職員、管理職の職員は、これに該当することが多いとされています。
「非番」と「週休」の違いはなんなのか?
基本的にはどちらも同じ“休み”の扱いとなりますが、なぜ「非番」と「週休」は名称が違うのでしょうか?
当然ながら、名称が異なる通り、それぞれの意味合いも違ってきます。
まず「非番」とは、“24時間勤務後の、明けの日”となります。
何も問題がなければそのまま時間通りに仕事を終えることができますが、例えば事務仕事が残っていたり、訓練があったりすると、その業務を終えなければいけません。
加えて「非番」の際は、招集がかかれば出勤を求められることもあります。
非常事態に備える必要があるため、遠出する際は申請が必要ですし、飲酒の制限もあったりして、さまざまな制約が設けられている自治体があるのです。
まとめると、「非番=基本的に休みではあるが、残業や帰宅後もさまざまな制約がある日」となります。
対して、「週休=公休」のことであり、毎日勤務でいうところの“土日”にあたる日となります。
つまり、「正式に認められた休みの日=完全フリーに過ごすことができる日」のことです。
この2つの休みは、同じ休みでも意味合いが異なるため、その違いを明確にしておきましょう。
「階級」について
消防官には、一人ひとり「階級」というものが割り当てられています。
(警察官や自衛官にも階級が存在するが、消防官には独自の階級制度が存在している)
ちなみに、「階級」とは“消防官としての地位を分かりやすく表したもの”であり、一般企業でいうところの「役職」と似たようなものと考えてもらっても良いと思います。
そして、消防官の階級は、以下のように10の地位に分かれています。
↓
◆消防副士長
↓
◆消防士長
↓
◆消防司令補
↓
◆消防司令
↓
◆消防司令長
↓
◆消防監
↓
◆消防正監
↓
◆消防司監
↓
◆消防総監
ただし、すべての自治体で10の階級に分かれているわけではなく、例えば地方の消防本部では階級がもう少し少なくなっていることも珍しくはありません。
上項でもお伝えした通り、公平・厳正な競争試験が行われるため、誰にでも出世のチャンスが得られます。
そして階級が上がれば、収入アップなども見込め、キャリアアップにもつながることでしょう。
「高卒」でも消防士になれる?「大卒」との違いはなに?
それぞれの違いについて
結論からいうと、「高卒からでも消防士になることは可能」です。
「大卒」と比べて、仕事内容に違いが発生することもありません。
ただし、注意点が2つあります。
一つは、「昇進するスピードは、大卒の方が早い」ということです。
この職に就くためには、自治体が実施する採用試験を突破したのち、消防学校で研修を受け、その後に消防署に配属……という流れになります。
そして上記「採用試験」は、学歴・年齢・試験の難易度によって、いくつかの区分に分けられているのです。
(自治体によっても異なるが)基本は「大卒程度」「短大卒程度」「高卒程度」の3つの難易度に分かれており、大卒に近づくほど難易度が高くなっていきます。
他の職種であっても、“高卒よりも大卒の方が給与が良くなる”という例はあるかと思いますが、この点については消防士も例外ではありません。
大卒の方が、初任給が高い傾向にあり、昇進・昇給もしやすくはなっています。
ただし、無限に上がり続けるわけではない点には注意が必要です。
そしてもう一つは、「経験がものを言う職業であるため、高度な技能が求められる業務に就く場合は、高卒の方が有利である」ということです。
大卒に比べて、「一足早く現場に赴く=より多くの経験が積める」ということであり、レスキュー隊など特に現場で高度な技能が求められる業務に就く場合は、高卒の人の方が有利となります。
また、消防士は(現場で活動を行う際は)体力がものをいう仕事でもあり、とりわけ特殊な救助部隊では年齢の上限が設けられていることも多いです。
「いち早く消防士として働きたい!」という人は、高卒から目指した方が、入隊して長く活躍しやすいというメリットもあるといえるでしょう。
もちろん、高卒であっても昇給は年齢が上がるごとに行われますし、昇進の可能性だって十分にあります。
結論:自分の将来の目標に沿って、進路設計を行うべきである
結論をいうと、「大卒であっても高卒であっても、やるべきことは同じ」です。
確かに、給与や昇進の面だけで見れば、大卒の方が高卒よりも有利といえるかもしれません。
しかし、“現場での経験”という意味では、いち早く現場に赴ける可能性がある高卒の方が有利と言えます。
「一日でも早く現場に出たい!」というなら高卒後すぐに消防士になった方がいいでしょうし、「しっかりと見聞を広めてから現場に出たい!」というなら、大学へ進んでから消防士になることも一つの手段と言えます。
どちらが良い・悪いということはないのです。
それに、「消防士になる理由=お金儲けである」という人もほとんどいないはずです。
民間であろうと公務員であろうと、消防士以外に多くのお金を稼げる仕事はたくさんあります。
消防士になりたいと考える人の多くは、「人命を助けたい」「世の中の役に立ちたい」という純粋な気持ちが強く、自分の体力や技術をそのために生かしたいと考えている人が多いはずです。
そのため、まず考えるべきは「将来的に、どんな消防士として働きたいのか?」という目標を立てるべきかと思います。
その上で、目標に沿った進路設計を行うべきなのではないかと考えます。
女性消防士のキャリアパスについて
女性消防士の「割合」について
「消防士=体力が必要な仕事」というイメージがあるため、「消防士=男性」という印象を持たれる方もいるかもしれません。
しかし、女性でも消防士になることが可能であります。
実際、まだまだ数こそ少ないものの、女性消防官の数は増加傾向にあります。
例えば、2017年には全消防官に占める女性消防官の割合は、「6.5%」にまで上昇しています。
特に都市部を中心に、採用枠に「女性枠」を設ける自治体も見られるようになってきました。
これは、1999年の「男女雇用機会均等法」の改正も追い風となっています。
ただし、男性にも受験資格時に身長や体重などの制限があるように、女性にも制限が設けられているため、この点は事前に十分に確認を行っておいた方が良いかと思います。
女性消防士の「強み」について
当然ながら、女性の消防士であっても、自分の個性や強みを発揮できる場面はあります。
例えば、現場では精神的に動揺してしまいがちな緊急事態に多々遭遇します。
患者本人はもちろん、家族や周囲の人とも接する機会が多いため、女性消防士に対して安心感を覚える人も多いのです。
また、地域住民に対する火災予防のイベントの際にも、女性消防士がいることで安心感を感じる人もいるでしょうし、企画時にも女性ならではの視点を取り入れたアイデアが形になっていくこともあります。
女性ならではの柔らかな印象や親しみやすさ……これが、地域住民に「安心感を与える」という意味で、大きな強みになるのです。
女性消防士の「働き方」について
結論からいうと、働き方という面については「本人の意志や適性次第」で変わってきます。
男性と同じように消防の最前線で働く人もいますし、毎日勤務などの日勤を中心にして家庭と両立できるスタイルを選ぶこともあります。
もちろん、「交代制勤務」で働く女性もいます。
ただし、女性消防士の場合、交代制勤務をするのは全体の3割程度といわれており、多くは毎日勤務に携わることの方が多いようです。
子育てしながら働けるの?
結論、「毎日勤務」や「育児短時間勤務制度」を利用して、子育てと仕事を両立することも可能です。
育児休暇を経て職場復帰し、その後勤務形態を変えるというケースもあるのです。
また、看護休暇を取ることもできます。
公務員である消防士には、さまざまな福利厚生が用意されており、女性が働き続けやすい職場環境づくりに積極的に取り組む職場も増えてきました。
もちろん、職場や家庭の理解を得ることは大事ではありますが、子育てをしながら仕事を続けることも可能です。
また、消防士は多彩な業務があるため、専門的なスキルを習得すれば、そのスキルを活かした業務に携わることもできます。
(例えば、救急救命士など)
結婚・出産といったライフステージに合わせて柔軟に働き方を変えていくこともできますし、努力や意欲次第で定年・一生働き続けることも不可能ではないのです。
まとめ
以上が、「消防士の給与や働き方」についてのご紹介となります。
消防士の働き方は多彩であり、男性・女性に関係なく、努力や意欲次第で長く働き続けることができる職業といえます。
ただし、誰にでもなれる職業ではなく、試験の合格難度も非常に高いため、狭き門であることは間違いありません。
それでも「消防士になりたい!」という熱意のある方は、ぜひ知見を広げて、その一歩を踏み出してみてください。