高齢の運転免許保有者が増加している一方で、高齢運転者による交通事故が社会問題となっています。
利用者側からすると「交通手段が減るし、まだ(自分は)大丈夫」と考える人がいる一方で、家族側からすると「事故の危険性があるから免許を返納してほしい」と考えることが多く、意見が食い違うこともあります。
ただ、現在は高齢者による交通事故がニュースなどでも話題となることから、自主的に返納する高齢者も増えています。
加えて自主返納は、事故のリスクを減らせるだけでなく、65歳以上であればさまざまな特典も受けることができます。
今回は、この「運転免許の自主返納」について、詳しくご紹介をしていきたいと思います。
運転免許の「自主返納」とは?
概要
「運転免許の自主返納」というのは、有効期限が残っている運転免許を“本人の意思で返却すること”を指しています。
ただし、免許の「停止」や「取消」の処分を受けている最中の人、および「有効期限が切れている人」は自主返納を行うことができません。
免許を返納するタイミングとして挙げられるのは、以下です。
②「加齢に伴う身体能力の低下が感じられたとき」
③「運転に不安を感じるようになったとき」
冒頭でも記載した通り、現在の日本は高齢ドライバーが増加しており、それと同時に高齢ドライバーによる交通事故が社会問題となっています。
このことに不安を感じ、自主返納をする高齢者も増えているのです。
何歳からできるのか?
自主返納に年齢は関係なく、また「何歳までに返納する」といった決まりもありません。
そのため、若者でも自主返納は可能です。
ただし、自治体や民間企業による“自主返納によって受けられる特典”は、65歳以上となっていることが多いです。
ちなみに、70歳以上でも車を運転することはできますが、70歳を超えると免許更新時に「高齢者講習」という講習を受けなければなりません。
また、75歳以上の方は高齢者講習の他に「認知機能検査」の受検が必須となり、さらに75歳以上+一定の違反歴がある人は「運転技能検査」という実車試験も受けなくてはいけません。
「運転技能検査」は、2022年5月13日から(75歳以上+一定の違反歴がある人に対し)義務付けられることとなりました。
仮に自主返納せずに車を運転することを希望したとしても、講習や試験を受けなければ、免許が更新できないようになっているのです。
自主返納する「メリット」とは?
自主的に返納するメリットとして挙げられるのは、「自治体や民間企業において、さまざまな特典を受けられる」があります。
例として挙げられるのは、以下のようなものです。
◆生活用品の代金や配送料の割引がある
◆車の査定で特典を受けられる場合がある
◆老後・死後に必要なものの割引を受けられる場合がある
そもそも、運転免許証は“身分証”としても利用されることが多く、「免許を返納する=身分証がなくなってしまう」という意見も多数あったそうです。
この、免許返納後に身分証として使えるのが「運転経歴証明書」であり、この証明書を提示することで割引などの特典を受けることができるのです。
ちなみに、申請できるのは“免許返納後、5年以内”となっています(自主返納と同じタイミングで交付を受けることができる)。
もし自主返納と合わせて運転経歴証明書を受け取りたい場合は、「申請用写真」と「手数料1,100円」を持参する必要があります。
次に、上記で挙げた「特典」について、深掘りしていきたいと思います。
代表的な特典①:公共交通機関の割引がある
「免許を返却したくない」と考える理由の一つは、「自動車を手放すと、移動手段の一つがなくなってしまうから」が挙げられます。
その移動手段に困ることがないように、この特典が設けられているのです。
これによって、バス・電車・タクシーなどの運賃の割引や優待を受けることができるようになります。
移動手段として「車」の選択肢がなくなるので、こういった公共交通機関の割引を活用するようにしましょう。
代表的な特典②:生活用品の代金や配送料の割引がある
スーパーやデパートで物(特に重たいものや大きいもの)を購入した際に、その移送手段として車を利用する人は多いです。
高齢者であっても同様であり、特に加齢による体力や筋力の衰えもあって、若い人に比べてより荷物の持ち運びに苦労するかと思います。
車がない場合、配送サービスを利用する人は多いかと思いますが、運転免許を自主返納した方は、その配送料を割り引いたり・無料にしたりするサービスを受けられる場合があるのです(そういったサービスを行っている企業がある)。
代表的な特典③:車の査定で特典を受けられる場合がある
“返納する=所有している車を運転できなくなる”ということです。
しかし、所有していれば維持費がかかってしまうため、誰かに車を譲るか・処分するかの選択を取らなくてはいけません。
この際、場合によっては「中古車販売店に査定に出す」のも選択肢の一つに入ります。
業者によっては、免許返納による売却の場合に、査定金額の割増やプレゼント特典を受けられる可能性があるのです。
ディーラーに下取りに出すより多くのメリットを得られる可能性があるので、免許返納によって車が不要になった際は、中古車販売店へ買取査定しているのも良いと思います。
代表的な特典④:老後・死後に必要なものの割引を受けられる場合がある
特典を受けられる対象が65歳以上の高齢者であるため、老後の生活や死後に必要となるものの割引が受けられる場合があります。
例えば、以下のようなものです。
◆電動車いすの購入費用の割引
◆遺影の撮影費用の割引
◆遺言や相続などに関する相談(初回相談が無料になるなど)
老後に必要となる生活用品の割引や「終活」に関する相談費用の割引などを受けられるケースがあるのです。
最大のメリットは「運転事故のリスクをなくせる」ことである
自主返納する最大のメリットは、「運転事故のリスクをなくせる」ということです。
人は年齢を重ねるごとに、徐々に身体機能が衰えていきます。
加齢による身体機能の衰えは、ハンドルやブレーキ操作に遅れが出ることがあります。
この原因は、動体視力の低下や複数の情報を同時に処理することが苦手になったり、瞬時に状況判断する力が低下したりするからです。
実際、高齢ドライバーによる交通死亡事故の人的要因は、「ハンドルなどの操作不適によるもの」「アクセルとブレーキの踏み間違い」「安全不確認」「内在的前方不注意(漫然運転など)」となっています。
中には「自分はまだ大丈夫」「年寄り扱いするな」と頑なに免許返納を拒む高齢者もいますが、交通事故は“自身”だけでなく“周囲の人たち”をも巻き込んだ命に関わる問題なのです。
何か問題があってからでは遅いのです。
だからこそ、早めに自主返納することで、こうした運転事故のリスクをなくすことが重要となります。
手続き方法について
手続きは、居住地域の「警察署」もしくは「運転免許センター」で行います(免許証が手元にない場合は、運転免許センターでの手続きとなる)。
所要時間は、返納手続きだけであれば20分~30分程度、運転経歴証明書の交付も同時に行う場合は計1時間~2時間ほどかかります。
ただし、日(というより込み具合)によっては、もっと時間がかかる場合もあります。
必要となるのは、「運転免許証」と「印鑑」のみであり、返納のみの場合は費用はかかりません。
現地で「運転免許取消申請書」を記入して、それを提出してください。
また、返納後の身分証として使用できる「運転経歴証明書」の申請も同時に可能です。
返納と同時に申請する場合は、別途「手数料」と「顔写真」が必要となるため、ご注意ください。
尚、「運転経歴証明書」は、返納と別の日に手続きすることも可能です。
ただし、交付申請可能な機関は、免許取り消しを行った日から5年以内となります。
そもそも何度も足を運ぶことにもなるため、できるのであれば返納と申請を同時に手続きしておく方が良いかと思います。
最期に、もう一つ。
原則として、免許証の自主返納は“本人”でないとできません。
しかし、入院中などのやむを得ない事情がある場合は、家族が代理で申請することもできます。
(故人の免許証も、遺族が返納することができます)
ただし、その場合は「委任状」が必要となります。
委任状の他にも、運転免許証やマイナンバーなどの“代理人の情報が確認できるもの”と、戸籍謄本などの“申請者と代理人の関係性を証明できる書類”なども必要となります。
免許返納の際の「注意点」について
返納の手続きを行う際、以下の点には注意しておいてください。
②「自動車保険の解約」
③「手続きの前に、車の名義変更や売却などを済ませておくこと」
順に解説を加えていきます。
注意点①「手続きに行く際は、自分で運転していかないこと」
もっとも注意が必要なのが、「自分で車を運転して返納しに行ってしまうこと」です。
当然、“免許を返納する=免許がなくなる”ということなので、返納した瞬間から車を運転することができなくなってしまいます。
行きはともかく帰りに困ることとなるので、公共交通機関を使用したり、家族に運転してもらってください。
注意点②「自動車保険の解約」
免許を返納すると車が運転できなくなるので、自動車保険も不要となります。
そのため、自動車保険を解約することとなるのですが、このときに一つ注意点があります。
それは、「条件を満たせば、同居する家族に等級を引き継ぐことができる」という点です。
※「自動車保険」「等級」については、以下記事を参照ください※
等級が高いほど保険料の割引率も高くなるため、家族が車を運転するのであれば等級を家族に引き継ぐことも選択肢の一つに加えてみてください。
ちなみに、「等級の引き継ぎのタイミングが合わない」「すぐに引き継ぎを行わない」という場合は、保険会社に「中断証明書」を発行してもらいましょう。
これを発行してもらうことで、自動車保険解約後も10年間等級を維持することができます。
10年以内であれば、中断時の等級を引き継いで高い等級で契約を開始することができますし、引き継ぎの際は中断した保険会社以外の会社で契約することもできます。
また、「すでに解約してしまった」というケースであっても、解約会社13か月以内であれば中断証明書の発行を依頼することもできます。
詳細については、契約していた保険会社に確認・相談をしてみてください。
注意点③「手続きの前に、車の名義変更や売却などを済ませておくこと」
車の名義変更および売却は、自身が運転できるうちに手続きを済ませておいた方がスムーズに進められます。
なぜなら、返納後に車に関する手続きをするとなると、移動手段が減って手間がかかる恐れがあるからです。
もちろん返納後に各種手続きを行うことはできますが、少なくとも車を運転することはできなくなるので、返納前に進めておいた方が便利かとは思います。
免許を返納したくない理由とは?
「免許を返納した方が良いかな……?」と頭では理解していても、現実問題として難しい方もいます。
自主返納をためらう理由としてもっとも多いのは、「車がないと生活が不憫になる」ということです。
車は移動手段の一つであり、買い物や通勤などさまざまな場面で使用されます。
「公共交通機関を使えばいい」と考える方もいるかとは思いますが、特に地方は交通の便が良くないところもあり、「車がないと生活できない」と考える人も多いのです。
また、仕事で利用している人も同様であり、特に農家の方などは「車が運転できなければ仕事にならない」という場合もあるはずです。
もう一つ、挙げられる理由として多いのは、「認知症のリスクが高まるのではないか?」という点です。
運転というのは、体を使い、かつさまざまな情報を瞬時に判断する必要がある高度な作業です。
実際、運転しない高齢者に対し、認知症発症のリスクが約4割減少するという結果もあるそうです。
そのため、「高齢だから」「危険だから」という理由で、むやみに運転をやめさせてしまうというのも考え物……という見方もあるのです。
ただ、だからといって「本人の自由意志で運転させていいのか?」となると、それもまた違った話になります。
上述でも記載した通り、“事故が起きてからでは遅い”のです。
では、自主返納に応じてくれない親には、どう理解してもらうのが良いのでしょうか……?
応じてくれない親にはどうすればいい?
家族側としては、高齢になればなるほど「運転を控えてほしい」と思うようになります。
しかし、上記や「年寄り扱いするな」といったさまざまな理由から、なかなか理解に応じてもらえないこともあるかもしれません。
この点については、「やんわりと気持ちを伝えていく」しかないのかなとも思います。
高齢者マークを付けるのは70歳以上であり、「高齢運転者」と呼ばれるのは70歳からが基本となります。
そのため、自主返納の目安は70歳前後と考えるのが良いです。
この前後のタイミングで、“そろそろ運転について考えるべき年齢である”ことをやんわりと伝えてみましょう。
自分では「まだ大丈夫」と思っていても、家族に指摘されて判断するというケースもあります。
もちろん、自身で目安を立てておくこと、自身で返納すべきかどうか?を考えておくことも大切です。
ただし、頭ごなしに「高齢なのだから返納を」と強制することは避けた方が良いかと思います。
大切なのは、本人が「自覚」し「納得」することです。
本人のプライドを傷つけず、信頼関係も損ねないように、伝え方には気を付けてみてください。
まとめ
確かに、免許を返納することで移動手段の一つがなくなるのはデメリットのように感じるかもしれません。
しかし事故が起きてからでは遅いため、できるだけ早いタイミングで、返納を意識したり・返納について家族で話し合ったりすることをオススメいたします。
ただ、運転できない(移動手段が減る)ことで家に引きこもりがちになってしまっては、心身ともに良くないことも事実です。
自主返納の特典として、65歳以上の方であれば公共交通機関の割引やその他特典を受けることができますので、活用できるものを上手く活用し老後を積極的に楽しんでみてください。